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家族の物語を子どもに伝える効果|『Do You Know』研究と12の質問

2026-09-19

家族の歴史や物語をよく知っている子どもほど、自己肯定感が高く、自分の人生を自分で動かせるという感覚が強い。米エモリー大学の研究者が2001年の調査から報告した結果です。ただし、質問の答えを覚えさせれば子どもが強くなる、という話ではありません。効いているのは、家族の話が食卓で繰り返し語られてきたことのほうです。

この記事は、子や孫に家族のことを伝えたい親・祖父母に向けて、研究が示したこと、示していないこと、家庭で使える12の質問、家族の物語を絵本や冊子にするときの設計を整理します。たどるのは、ご自身の直系のご先祖です。

家族の物語を知る子どもの自己肯定感|エモリー大学の研究

家族の歴史を多く知っている子どもほど、自己肯定感が高く、自分の家族はうまくいっていると感じていました。エモリー大学の心理学者マーシャル・デューク氏とロビン・フィバッシュ氏の調査結果です。

項目内容
研究者マーシャル・デューク、ロビン・フィバッシュ(米エモリー大学・心理学)
時期と対象2001年夏、約48家族
方法子どもに家族についての20の質問をし、食卓での会話を録音。子どもが受けた心理検査の結果と比べた
結果家族の歴史を多く知る子どもほど、人生を自分で動かせる感覚が強く、自己肯定感が高く、家族がうまく機能していると感じていた

調査の2か月後に米国で同時多発テロが起きました。研究者は同じ子どもたちをもう一度調べ、家族のことを多く知っている子どもほど、強いストレスからの立ち直る力(レジリエンス)が高かったと報告しています。

その後の研究でも、親や祖父母が若かった頃の話を知り、筋道立てて語れる青年ほど、自己肯定感が高く、気分の落ち込みや不安が少ないという結果が出ています。次の節で、20の質問の中身を見ます。

「Do You Know」20の質問とは|子どもに聞く家族のこと

「Do You Know(知っていますか)」は、子どもが家族についてどれだけ知っているかを「はい・いいえ」で答える20問の質問表です。公開されている質問の例は次のとおりです。

  • 祖父母がどこで育ったか、知っていますか
  • お父さん、お母さんがどこの高校に通ったか、知っていますか
  • 両親がどこで出会ったか、知っていますか
  • 家族に起きた病気や、とてもつらかった出来事を知っていますか
  • 自分が生まれたときの話を知っていますか

例を見ると、どれも子ども本人が体験していない出来事です。誰かから聞いていなければ答えられません。つまりこの質問表は、知識の量そのものより、家族の中で話が語られてきたかどうかを測っています。この点が、次の節の「読み方」に関わります。

研究の限界|質問の答えを教えれば自己肯定感が育つわけではない

この研究は、答えを教えた子と教えなかった子を比べた実験ではありません。家族のことを知っている度合いと、心理検査の結果が連動していた、という観察です。読むときは次の3点を押さえてください。

確認する点内容
因果は示していない「知っているから強い」のか、「よく話す家庭だから両方が高い」のかは、この調査では区別できない
対象が限られる約48家族、米国の家庭。日本の家庭でそのまま同じ結果になるとは言い切れない
測っているのは会話の積み重ね質問の答えを暗記させても、食卓での会話が増えなければ同じ効果は期待しにくい

実務上の意味ははっきりしています。用意するのは暗記カードではなく、家族の話が出る場面です。食事、帰省、法事、アルバムを開く時間。そこで何を話すかを、次の節で整理します。

家族の物語の伝え方|良い話だけでなく乗り越えた話を入れる

子どもに伝える家族の物語は、うまくいった話だけにしないほうがよい、とデューク氏は述べています。氏は家族の物語を3つの型に分けました。

型語り方例(説明用の作例)
上り調子の物語何もないところから始めて、ここまで来た「ひいおじいちゃんは裸一貫で出てきて、店を持った」
下り調子の物語昔は良かったが、すべて失った「昔は大きな家だったのに、全部なくなった」
浮き沈みの物語良い時も悪い時もあった。それでも家族は続いてきた「店を一度たたんだ。それでも家族で引っ越して、もう一度始めた」

氏が最も健全だとしたのは、3つ目の浮き沈みの物語です。子どもは、困ったことが起きても家族は続いていく、という見通しを物語から受け取ります。

ただし、つらい出来事を語るかどうかを決めるのは、その出来事の当事者です。この点は後半の「載せる話・載せない話の決め方」で扱います。

家族の歴史を子どもに伝える12の質問|祖父母・親に聞くこと

家族の話を引き出すには、子どもに質問する前に、祖父母や親に聞いておく必要があります。次の12問は、「Do You Know」の考え方を、日本の家庭で祖父母・親に聞く形に直したものです。研究で検証された質問表そのものではなく、聞き取りの台本としてお使いください。

  1. どこで生まれて、どんな家で育ちましたか
  2. 子どもの頃、いちばん好きだった遊びは何ですか
  3. どんな仕事をしてきましたか。いちばん大変だった日と、いちばん誇らしかった日は
  4. お二人はどうやって出会いましたか
  5. 子ども(孫から見た親)が生まれた日は、どんな日でしたか
  6. 家族で乗り越えた大きな困難は何ですか。どうやって乗り越えましたか
  7. 家に伝わる口癖、決まりごと、行事はありますか
  8. ご先祖について聞いている話はありますか(出身地、家紋、名前の由来)
  9. 家族の中で「こんな人になってほしい」と思う人は誰ですか
  10. 孫の名前が決まったとき、どう思いましたか
  11. 孫が大きくなったら、一緒にやりたいことは何ですか
  12. 孫に一言だけ残すなら、何と書きますか

進め方は次のとおりです。

  • 1回30分までにする。12問を一度に聞き切ろうとしない
  • 録音の許可をもらい、あとで文字にする
  • 答えたくない質問は飛ばす。6番は特に、話したい範囲だけでよい
  • 写真やアルバムを一緒に見ながら聞くと、話が出やすい

聞き取りは、聞く側だけでなく、話す側にも意味があります。

語る祖父母の側にも効果がある|回想法の研究

自分の人生を振り返って語ることは、高齢者の気分の落ち込みを和らげ、人生を肯定的にまとめる感覚を高めます。思い出を語る支援(回想法)と、人生全体を振り返る支援(ライフレビュー)について、128の研究をまとめて分析した研究(メタ分析)が2012年に報告しています。2024年の更新版でも、同じ方向の結果が確認されています。

別の系統的レビューは、気分の落ち込みがない高齢者には、思い出を語り合う簡単な回想を、心の健康を保つ方法として勧めています。家族による30分の聞き取りは、この簡単な回想に近い形です。

ただし、家族の聞き取りは治療ではありません。話したくないことを聞き出さない、疲れたらやめる、の2点を守ってください。

家族の物語を絵本にする設計|研究と照らした8つの要素

聞き取った話を孫に渡す形の一つが、絵本です。絵本は寝る前に「もう一回」と言われる媒体で、繰り返し読まれることが最初から組み込まれています。家族の物語を絵本にするときの要素を、根拠の強さと合わせて整理します。

要素内容根拠
1. 目次は家族への質問から作る祖父母の育った土地、仕事、両親の出会い、生まれた日の話「Do You Know」の質問項目
2. まんなかに家系図の見開き登場した家族が全員並び、いちばん下に本人。指差して探せる設計上の工夫
3. 家族本人の顔を大きく描く写真、または写真から起こした似顔絵乳児は絵本の中の顔に強く注目する。子ども本人に合わせて作った本は、語彙の習得と親子のやりとりを増やした
4. 乗り越えた話を1見開き当事者が話してよいとした範囲でデューク氏の「浮き沈みの物語」
5. 各見開きに問いかけを1つ「おじいちゃんに聞いてみよう」など問いかけを交える読み聞かせは、読むだけより言葉の伸びが大きい
6. 文を2層にする幼児向けの短い繰り返しの文と、大きくなってから読む本文設計上の工夫
7. 最後に祖父母の手書きの手紙聞き取りの12番の答え設計上の工夫(関連:回想法)
8. 紙の本で渡す画面ではなく、めくれる本にするデジタル版では、本人向けに作ったページとそうでないページで差が出なかった研究がある

「設計上の工夫」とした項目は、研究で効果が確かめられたものではありません。研究が示しているのは、あくまで個々の部品についてです。家族の絵本を渡せば子どもの自己肯定感が上がる、と確かめた研究はありません。絵本は、家族の話が語られる場面を増やすための道具として考えてください。

印刷にかかる費用はオリジナル絵本を1冊だけ作る費用にまとめています。

絵本や冊子に載せる話・載せない話の決め方

家族の物語を形にするときは、存命の当事者が同意していない事実は載せない、を原則にしてください。

戸籍をたどると、家族の会話では語られてこなかった記録が出てくることがあります。再婚、養子、幼くして亡くなった子、戦没した親族などです。私自身、家系図を作ってみて、自分の思い込みが戸籍で訂正される経験をしました。

判断目安
載せる本人が話してくれたこと。本人が「孫に伝えたい」と言ったこと
確認してから決める戸籍で初めて分かったこと。存命の親族に関わること
載せない当事者が望まないこと。本人に確かめられないまま、誰かを傷つけうること

子どもに渡す本は、親族の誰が読んでも困らない範囲にとどめます。詳しい記録は、大人向けの家族史や年表に分けて残せます。分け方は自分史・家族史の作り方を参照してください。

お手元の戸籍を読んで家系図に整理するしごとをしています。できあがるものをご覧ください。

よくある質問

何歳から家族の話を伝えればよいですか?

決まった年齢はありません。幼いうちは写真や絵で顔と名前から、小学生になったら出来事の話へ、と段階を踏むと続きます。

子どもに語れるような立派な話がありません

立派である必要はありません。研究で最も健全とされたのは成功談ではなく、良い時も悪い時もあったが家族は続いてきた、という浮き沈みの物語です。

祖父母が遠方に住んでいる、またはすでに亡くなっている場合は?

親が知っている範囲の話から始めてください。生年月日や続柄などの骨格は戸籍で補えます。手順は先祖の調べ方と家系図の作り方にまとめています。

家系図は作ったほうがよいですか?

必須ではありません。ただ、家族の関係を1枚で見せられるので、子どもが「この人は誰」と聞くきっかけになります。費用は家系図作成の費用相場を参照してください。


まとめ|家族の物語を子どもに伝えるために

  • 家族の歴史を多く知る子どもほど自己肯定感が高い、という研究がある。ただし因果を示したものではない
  • 効いているのは知識の暗記ではなく、家族の話が繰り返し語られること
  • 良い話だけでなく、乗り越えた話を入れる。語るかどうかは当事者が決める
  • まず祖父母・親への聞き取りから。1回30分、12の質問を台本にする
  • 絵本や冊子は、家族の話が出る場面を増やす道具として使う

参考資料

*本記事は家族の記録づくりに関する一般的な情報提供であり、医療・心理の助言ではありません。戸籍をたどるのは、ご自身の直系のご先祖に限られます。*

お手元の戸籍を、読んで整理します

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